記憶の屑籠

考えたこと買ったもの。いろいろ詰め込む雑記ブログ

クレイジー・ライク・アメリカ(紀伊國屋書店)

香港の拒食症、スリランカPTSDザンジバル統合失調症

そして日本のうつ病について、「アメリカ人がアメリカが行ったことを

省みる本」を日本語訳したものである。

 

香港の章は、香港の医者が実際に診た患者についてアメリカで学んだこととの違いや実際にどんな治療を試みたのかがメインである。

西洋医学だけでなく東洋医学を用いて治療してみたり、実際に医者が

拒食実験をしてみたりと尽力する様子、しかし助からなかった患者…

なかなか泣ける場面である。(私が涙もろいのかもしれないが)

この章では"輸出された"感はあまりない。欧米との症状の比較が多かった。

 

スリランカの章は読み終えた時の感情は怒りであった。

これは輸出というより文化の押しつけ、相手を尊重していない。

善意で活動しているのかも疑問である。

悪意はないにせよ、PTSDの研究として絶好のチャンスなので

被災者よりも自分の功績しか見えていないように思える。

被災者を助けるどころか、トラウマを植え付けるようなことをしていたのである。ただでさえ混乱の中、知らない人が大勢押しかけてきて個人的なことを聞かれては不安は増大するであろう。しかもカウンセリングをするのに現地の言語を知らないというのは効果が薄れるのではないか。抗うつ剤を手渡すだけの団体もあったという。

中盤以降、アメリカの輸出の経緯について書かれている。

スリランカの戦争や貧困などを経験しているから恐ろしい出来事を

消化できるというのは、自然災害が多い日本とも何か共通点があるのではと思った。

 

ザンジバルの章は統合失調の家族がいる家庭の観察がメイン。

発展途上国の方が重症化しないというデータから欧米人は学ぶ立場として書かれている。個人的にショックだったのが、内的統制感と外的統制感についてである。私は内的統制感があると考えられ、そのような人は統合失調者に対して批判しがちになるという結果である。統合失調者とも接点があるので、これは気を付けなくてはならないと改めて思った。

 

日本の章はどうしても感情的に読んでしまう。というのも私自身、SSRI系の薬を飲んでいるからだ。そうはいっても、メインはサブタイトルにあるように輸出の経緯である。本当に巧妙で恐ろしい。

話は変わるが、大学では参考文献について本当に信用できるものなのか

ということをしつこく言われる。この章で明らかになるのは

都合のいいように論文を書いていたことである。

自分たちが参考にする論文は変な息がかかったものではないかと

不安になる。これに関しては信じるしかないが…

 

 

全体を見てDSMに頼り過ぎてる印象がある。

本書にたくさん出てくる"文化"を大切にしないといけない

当たり前のことだけど、少なくとも精神医学ではそうじゃない。

日本のうつ病も、もっと日本独自の研究をしていくべきだと思った。